近未来日本社会の方向性(その3)-「令和の米騒動」から農業の将来を考える

今回は近未来の方向性を考えるにあたって、今おきている「令和の米騒動」から考えてみたい。

まずは、宇都宮大学助教・小川真如先生の論考(『中央公論』2024年11月号)を紹介したい。小川先生は、「2024年夏に起きた『令和の米騒動』の正体は、供給と需要の変化がもたらしたコメ争奪戦の最終局面」だと指摘する。「今回の品薄の原因は、供給と需要の両方にあるが、とくに供給側が大きな影響を及ぼした」という。さらに「23年産のコメは、面積あたりの玄米は平年並みに収穫できた。しかし、生産調整の推進を背景に生産面積を減らし過ぎたため、主食用米の生産量は、農林水産省の見通しより8万トン少ない661万トン」で、「その品質は大幅に低下しており、かつ主食用に流通させる玄米を選別する際にふるい目から落ちた「ふるい下米(したまい)」が激減するという特異な年」で、それは「気象の影響」だという。さらに「23年7月から24年6月のコメ需要量は702万トンだった。これは、農林水産省が予想した680万トンより22万トンも多い」。需要量急増の背景については「一つの要因は、物価高騰に悩む家庭にとって、割安感があ」り、「消費者物価指数は、20年を100とすると、24年6月は食料品が116と大幅上昇するなか、米類は107と緩やかな上昇だった。円安で大幅値上げした小麦が原材料のパンは121、麺類は120と、コメのライバルの割高感も影響した」という。

 どうやら根本的には国が進めてきた減反政策の結果のつけ、であるといえよう。さらに注意深くみると、これまでこのブログでみてきたような、農業政策分野においても新自由主義的政策の結果なのだとみてとれる。そうした政府の政策こそが批判されるべきなのに、いつの間にかJAが「悪玉」に仕立てられている。政府備蓄米や価格高騰の原因があたかもJAにあるかのように仕立てられている。それは次のような構図である。米不足にあって政府備蓄米の放出が緊急課題として描かれ、備蓄米を放出するにあたってJAを中継すると割高でしかもスピードが落ちる。それに対して、小泉農林水産大臣が登場し、JAを通過せずに備蓄米を安く提供する。小泉劇場型政治構図である。「小泉大臣=ヒーロー、JA=悪」という構図である。

 JAの果たす役割について、改めてみておこう。1947年農業協同組合法が成立する。そこには「農業生産力の増進と農業者の地位の向上を図り、国民経済の発展に寄与すること」とあった。それが、2014年5月の第二次安部政権下で、改正農協法が成立する。JAを一般社団法人化した。そこではJAの指導権限をなくし、地域農業の自立と競争を促す仕組みが創られた。またJAを株式会社化できる規定も入れられた。日米の企業が農業を買収する仕組みもできたわけである。その結果、大規模経営体の育成と農業法人化に重点が置かれ、中小規模の農家の離農につながる。東京大学大学院特任教授の鈴木宣弘先生は、日本の米農家の中で「15ha以上の経営は数で1.7%、面積で27%」大規模化には限界がある。小規模農家は農協の共同販売によってこそ強力な買手と対等な取引交渉力を発揮できる」農協の存在があってこそ「農家の価格はより高く、中間マージンを削減して消費者価格も引き下げる効果がある」と鋭く指摘する。(『東京新聞』6月25日付)

 実際、農林水産省が6月28日に発表した2024年農業構造動態調査によると、個人農家や法人などの「農業経営体」の数は前年比5・0%減の88万3300となり、比較可能な05年以降で初めて90万を下回った。 200万を超えていた05年から一貫して減少が続いている。 個人で農業を主な仕事にする「基幹的農業従事者」数は60歳以上の割合が8割で、高齢化が顕著である(いずれも2月1日現在の数値)。

日本の農業の大きな特質について、中島岳志先生は、「中山間地の斜面に水田がつくられている地形的特質を鑑みれば、精算コストを下げるための大規模化に限界があることは明白。小規模農家を守るとは農業を守るだけではなく、治水機能や環境を守ることにもつながる。」と指摘している(東京新聞・6月25日付)。

 日本農業再生への途は、JAが協同組合としての本来の役割をいまこそ発揮し、農業従事者が安心して営農できる環境整備にこそある。政府は、減反政策と新自由主義的農業政策から農政を根本的に転換し、中小農業従事者への抜本的支援を強化すべきなのである。