ブラームス・交響曲第1番を聴き比べる

以前、このブログで予告(9月8日付・「9月の音楽会報告」)しましたブラームス交響曲第1番の聴き比べです。私は、ベートーヴェンの9曲の交響曲以外の中では、チャイコフスキーの交響曲第5番と、このブラームスの交響曲第1番に特別な愛着をもっています。後者について評論家の故宇野功芳氏は、「ブラームスが『自分の交響曲を聴く時はハンカチを2枚用意してほしい』と言ったというが冗談じゃない。ブラームスは暗く、嫌いだ」と評していますが、この第1番は決して暗くはありません。むしろ、苦悩から勝利へと繋がる交響曲(その意味ではベートーヴェンの第9やチャイコフスキーの第5番と同列)なのではないかと思います。ここで手許にある私が名盤と思う演奏を比べてみました。ここから先はかなりマニアックな文になりますので「付き合い切れない」という方は御容赦ください。素通りしていただいて結構です。

まずお断りしなければならないのは、近年、CD・DVDなどのパッケージメディアは風前の灯火で、それに変わる配信音楽は、益々高音質化しています(銀座「山野楽器」がパッケージメディア販売から撤退した事実はその象徴です)が、齢70歳を迎えた小生は既にその技術革新にはついていけていけていません。そこでこれまで入手したCDを比較の対象とします。同曲を聴き比べる時、私はいくつかのポイントを設定しています。まず、第一楽章冒頭・序奏部のテンポとスケールです。第2楽章・第3楽章の美しさも重要。そして第4楽章の堂々とした展開。さらにいえば、曲の構成力・推進力・録音等も重要な要素になります。私はこれらを聴くポイントとして設定しています。

 私が高い評価を与えているのは、写真の演奏です。迷ったのですが、ここにはピエール・モントゥーとブルーノ・ワルタ-の演奏は除きました。右上はベーム指揮ウィーンフィルが1975年に来日した時のライブ版です。そのスュールの大きさは他を圧倒しています。右中はクレンペラー指揮フィルハーモニー交響楽団の1957年版で、右下はカラヤン指揮ベルリン・フィルの最後の来日(1988年)時の演奏です。私はカラヤンのドイツ・ロマン派の演奏は苦手ですが、これはどうしてどうしての演奏です。中上はシャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団の1968年版。中下はフルトヴェングラー指揮ウィーンフィルの1947年ザルツブルグ音楽祭ライブです。この曲の演奏ではフルトヴェングラーに期待しましたが、残念ながら演奏と録音がマッチしていません。素晴らしい演奏だと思っても録音がいまいちで音を拾い切れていないのです。左上はクルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレドレスデンが1973年来日時のライブで、左下は同じくザンデルリンク指揮・ベルリン交響楽団(1990年)です。

 フルトヴェングラーの演奏に期待した旨指摘しましたが、フルトヴェングラーができなかった演奏が、ミュンシュとザンデルリンクがなし得たように思います。したがって、私の一押しの演奏は、ミュンシュとザンデルリンクということになります。この曲に関心のある方で未聴の方は是非どうぞ。