2020年度のゼミ・後期ゼミについて思うこと

7年ぶりに開いたゼミも、ゼミ論文中間発表会とゼミ論文執筆という大イベントが残っていますが、年間計画を無事終えました。Zoomを用いたオンライン型で不自由な点もありましたが、ゼミ生諸君は実によく頑張ってくれました。
2020年度の後期は、吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』(写真上)を全員で読みました。今から84年前の1937・昭和12年に書かれた本です。未だに読み継がれ、最近5~6年ではマンガ゙本も含めてベストセラーになっています。私は、この機会に関連した本(写真下)を読みました。
写真下の一番左側は、私がこの本を初めて手にした小学生の時のポプラ社版。この機会に読めた本は、吉野源三郎の一連の著作と、『きみたちはどう生きるか』の各種解説本です。解説本は、あまりしっくり来ないものが多かったです。橋本進氏の『「君たちはどう生きるか」を読み解く』(下写真右から2冊目)は、大学生向けの講義本で、吉野本の各章の論点をなぞりながら、そこでの名著を詳細に紹介するという内容です。これなどは、大学生が読むのに格好な入門書だと思います。梨木香歩氏の『僕は、そして僕たちはどう生きるか』(下写真左から5冊目・岩波現代文庫)は、この主人公もコペル君ですが、現代版の『君たちはどう生きるか』だと思います。
今回、ゼミ生諸君と読む中でいろいろ教えられました。ゼミ生諸君の共通の感想は、「今の社会でも充分通用する説得力ある本」というものでした。たしかに、吉野さんがこの本を書いた当時は、中国大陸への本格的侵略が始まる時期であり戦争の時代でした。吉野さん自身が「あとがき」で書いているように「真実を語ることができない」時代に「子どもたちには真実を伝えたい」という」という思いに満ち溢れた本です。
ゼミ生諸君が読み取った「今の時代に通用」するとはどういうことなのか。社会全体の同調圧力の強さ・「でたらめ」という程の強すぎる政治権力、等の下での無力感の中で、吉野源三郎のいうヒューマニズム・人間中心主義を私たちは必要としている、ということのあらわれなのではないかと考えます。『人間を信じる』(下写真の左から4冊目・岩波現代文庫)戦後、灰塵の中で人心も荒れ果て、そうした「さま」を目の当たりにして、なお呟いた吉野源三郎の思い・言葉を掘り下げて考えてみたいと思っています。