菅政権による「学術会議委員任命拒否」問題の本質はどこにあるか。

今回の事件の本質は、日本学術会議を潰し、政権によって学問を統制することに狙いがある。学術会議委員の内閣総理大臣による任命拒否はその入り口にすぎない。

<異様なデマ攻撃の実態>
驚くべきことの一つは、任命拒否問題が明確になり、それに対する批判が噴出する中、政権側ないし政権に近い立場の人から驚く程に低次元の攻撃が展開された点である。例えば、ある閣僚経験者は「学術会議が中国の千人計画に協力している」というデマを流し、別な閣僚経験者は「日本学術会議は答申を出しておらず仕事をしていない」というデマを流した。さらに「学術会議会員になれば年金250万円がもらえる」とはフジテレビ解説委員によるものであり、「任命拒否された六人の学術評価はスコーパス(学術評価ツール)で低評価だった」とは某・加計学園客員教授である。
なんとも低次元の攻撃だが、共通する点は、少し調べればわかる程度のデマを流した程に躍起になっている点だ。それ程にこの問題は核心を付き、彼等の焦りを起こしていると思われる。

<学術会議法違反の実態>
「任命が推薦に基づいて行われる」にも関わらず「任命の義務はない」という議論のすり替えは明らかに学術会議法違反である。この点で、法学者で元学術会議議長の広渡清吾氏(東京大学名誉教授)は「なぜ任命拒否がダメなのか」それは「日本が法治国家だからです。たとえ最高権力者であろうと、解釈変更による法律違反は許されない」と断言している。

<任命拒否問題の本質は政権による学問統制にある>
今回の菅政権による任命拒否問題の究極の目標は、人文社会系の御用学者を創り出したい政権の思惑にある。今回の任命拒否は、つまりレッド・パージそのものなのだ。政権が気に入らない研究者を排除する点に注意しなければならない。
近年の日本の学術政策は科学技術偏重で、人文社会系はお荷物、場合によってはリストラの対象、とこれまでは言われてきた。昨年「統合イノベーション戦略2020」が成立し、従来の科学技術基本法から25年ぶりに科学技術・イノベーション基本法に改正された。旧法では対象外だった人文社会がここに入った。政権は人文社会科学の重要性に気づいたわけである。
そのきっかけは東日本大震災だったようである。2011年以降、危機管理は災害関連分野の専門家だけではなく、人文社会系の研究者、経済学者、ジャーナリスト、財界人などが必要となったのだ。今回の新型コロナ対策もまたしかりである。メディア対策やリスクコミュニケーションを含め、人文社会系の知も動員してそれこそ総合的、俯瞰的に対応せざるを得ないと判断されたのだ。
政権にとって学術会議がネックとなるのは、軍事研究に協力しないという声明を再三出した事実があり、もう一つ核のゴミ問題では、2015年に学術会議の文系理系の研究者が領域を問わず「高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言」を出している。軍事研究と原子力政策については、学術会議は政権に批判的提言を続けてきたわけである(先のデマ攻撃の一つ「学術会議は仕事をしていない」は、政権が気に入る仕事をしていないということでもある)。
私たちは、政権による学術会議介入を許せば、次に大学学長任命に対する介入と、科学研究費補助金に対する配分に、政権の介入を許すことに連なると考える。実際、自民党の杉田水脈議員などは「反日的な研究に国費は出すな」と主張し「慰安婦」問題研究に圧力をかけている事実がある。
こうした先を見据えた時、だから、我々は政権による学術会議委員任命拒否問題で譲れないのである。