相模原事件とヘイトクライム 第三章を読んだ感想 阿部恵大

世界に内在する「ヒトラー」

 T4作戦が劣勢な遺伝子を消す目的として医者の積極的・積極的加担により行われていたという事実を受け、もしもヒトラーが存在していなかったらどのようになっていたのだろうかと考えさせられた。
 
 T4作戦に先立ちヒトラーは政権を掌握した同年に「遺伝病子孫防止法」いわゆる「断種法」を制定していた。これによりT4作戦を法的に容認していたわけである。しかしヒトラーが政権を掌握する以前に「価値なき生命の抹殺を容認する書」というものが精神科医のアルフレート・エーリッヒ・ホッヘと法学者のカール・ビンディングにより出ていた。驚くべきことである。この事実から、もしも当時ドイツにヒトラーという人物が存在していなかったとしても代わりの人物がヒトラーと全く同じことでなくとも同様な優生思想を根底においた虐殺が行われていたのではないかと考えた。

 ヒトラーがT4作戦を中止した後にも精神科医の手を離れて看護師、介護士が勝手にやっているという「野生化」の状態にT4作戦が入っていたということから「価値なき生命」の抹殺を是認する思想がT4作戦の中心を担っている人物、または国の中心を担っている人物だけでなく、どんな人にもある可能性が伺えた。つまり誰にでもヒトラーの代わりに同じような悲劇を起こす可能性があるということである。
 
 では当時T4作戦のような悲劇を起こす可能性があるのがナチス・ドイツという一国だけかというとそうではなかった。世界中ではフランシス・ゴルトンやアルフレート・プレッツら科学者によって「優生思想」提唱され、断種と合わせて英国や米国、スウェーデンなどで具体的な政策として掲げられていた。この事実から世界中に優生思想と共に断種というものが少なからず一定の人々に是認されていたといえる。つまり世界中場所に関わらず「ヒトラー」が生まれる可能性があったと言うことである。これは過去に限る話ではない。現在も優生思想を持つ人々がいる。現在においても「ヒトラー」なるものが生まれる、もしくは存在していてもおかしくはないのである。
 
 これは日本においても例外ではなく相模原事件における植松容疑者も上述したような「ヒトラー」なるものであるのではないだろうか。